地域つなぐ神輿を次世代へ 行徳神輿づくり150年
コロナ以降、全国各地の祭りは縮小や中止を余儀なくされてきた。「3年続くと、それが常識になっていくことは否めない」――。江戸時代から神輿づくりで祭りを支えてきた中台製作所(市川市本塩)の中台洋さん(51)は危機感を口にする。
画像=行徳御輿ミュージアムで御輿の魅力を語る中台さん
祭りや神事は平穏無事に暮らせることに感謝し、地域の人と人をつなぐもの。「コロナでそれが絶たれてしまったのは大きな損失。何のためにやっているのか、しっかり次世代に伝えないと」
行徳地区には寺社が多く、かつては腕利きの宮大工ら職人が集まっていた。神輿づくりも盛んで、戦後は中台製作所を含む3つの神輿屋で国内の江戸神輿の多くを製作したが、今も残るのは同社だけだ。「この業界を生きもので例えると絶滅危惧種みたいなもの。残っていくためには個体に生きる力が必要。誰かに必要とされる価値のある個体でいなきゃいけない」と中台さん。製作の傍ら、近隣の小学校での出前授業や地域の歴史本を作り寄贈するなど子どもたちに興味を持ってもらおうと努めている。
18年には神輿づくりの製造工程などを紹介する「行徳神輿ミュージアム」を同社の一角に設けた。「職人が一般向けに神輿づくりのあれこれを説明するなんて、これまでの業界では考えられなかった。自分たちの曲げられない理念もあるがその時代に応じてどう理解してもらっていくか。工夫し自らの価値を高め、認知してもらうことが必要」と思いを語る。
コロナ禍であっても「翌年こそは祭りの復活を」と考える顧客から神輿や山車の仕事が舞い込む。船橋、習志野からの依頼も多く、昨年は小栗原稲荷神社の太鼓山車も修理した。納品した神社や自治体から感謝状を贈られることもあり、自分の仕事をしてこんなに感謝される職業はほかにないと、やりがいを感じるという。「先人より受け継いだ伝統を時代と共に進化させ、未来へとつなげる」を理念にこれからも地域の祭りと人々のつながりを支えていく。