小惑星「フェートン」探査 地球生命誕生の謎に迫る

地球に接近する直径約6㌔の小惑星「フェートン」を観測する探査機「DESTINY+(デスティニープラス)」。千葉工大惑星探査研究センター(PERC)が宇宙航空研究開発機構(JAXA)などと共同で進めるプロジェクトで来年度の打ち上げに向け、研究開発が大詰めに入っている。

画像=千葉工業大学惑星探査研究センターの荒井所長。同センターは日本初の惑星科学の研究機関として09年に同大内に設立された。JAXAやNASAなどと連携し大型の探査計画に参画するほか、独自プロジェクトなどで太陽系の成り立ちや地球生命の起源などに関する研究をしている

フェートンは毎年12月に観られるふたご座流星群の母天体。小惑星ながら太陽に近づくと彗星のようにダスト(ちり)を放出する。一般的に小惑星はちりを放出しないため、フェートンは「活動的小惑星」として研究者の間で注目されている。理学ミッションの責任者で、PERCの荒井朋子所長(52)は「フェートンの表面はどうなっているのか。どうやってちりを吹いているのか。ちりの中にどれだけの有機物が含まれているのか」。これらの謎を解き明かすことで、「地球の生命の起源」が宇宙にあるとする外因説に迫ることになると期待を込める。

JAXAが開発中のイプシロンSロケットに3つの観測機器を搭載。打ち上げから約4年をかけフェートンに接近する計画。小惑星の近傍を通過しながら観測する「フライバイ探査」を試みる。同大はそのための追尾望遠カメラと、表層の物質分布を調べる機器の開発を担当している。探査機はフェートンまで約500㌔の距離まで接近し観測する。「離れたところからしっかり捉えられるか。観測は一発勝負。失敗は許されない」と言葉に力が入る。

フェートンの軌道が特異であることから上陸は不可能で並走しての観察も難しい。多くの国の研究者らが観測を断念している。「接近してちりを取ってこれないのであればその場で測っては」と荒井所長を含む学会のチームが提案したのは10年のこと。その後、宇宙科学研究所(ISAS)の公募型事業に応募し選定され、今回のプロジェクトにつながった。「地球の生命の種を運んできているような天体に探査機を送るのは初めてのチャレンジ。世界中が注目している。日本の小型ミッションでそれが実現できるのは奇跡的」と荒井所長。はやぶさ2は小惑星リュウグウに着陸。1年以上滞在して観測やサンプル採取を行い、世界的に大きな評価を得た。今回のデスティニープラスで着陸や接近が難しい天体を広く浅く調べる技術を獲得できれば、「日本が宇宙分野で世界をリードしていくことにもなる」と意気込んでいる。