「人」紫綬褒章を受章した教育社会学研究の東大名誉教授 苅谷剛彦さん

親の学歴など出身階層による教育格差。近代化の過程での教育政策の問題点などを独自の調査と視点で浮彫にしてきた。多数の著書やメディアを通じて社会への発信を続けている。

「教育社会学という分野は経済学や歴史学のように認知度の高い分野ではない。そこで評価されたというのはありがたい」。同じ分野を研究する後進の「わがことのようにうれしく感じた」という称賛がこれ以上無くうれしかった。

1955年東京生まれ。結婚を機に79年、習志野市に移住してきた。東大大学院教育学研究科の教授を経て、08年から英オックスフォード大で教べんを執る。

20年度改訂の新学習指導要領について「理想主義的な教育を実現しようというのは今も変わらない。いいと思うものは何でも加えるけど、それがどう実現するかは検証しない。実現するために必要な資源も考えない。最低限何が必要で、あとは他に任せるという発想じゃないからどんどん項目が長くなる。その結果、学校が疲弊している」と警鐘を鳴らす。

方針にある「主体的・対話的で深い学び」という文言一つとっても現場の教諭たちは理解に苦しむ。ゴールが高く設定されていることが教諭にも子どもにも困難を生む。問題を解決するためには根本的に教育の発想を変える必要性がある。

教育の不平等や労働環境について、欧米では人権問題として人々が声を上げることに積極的。「日本人も権利を主張するための知識を身に付け、問題について人々が連帯できる仕組みが必要だと思う」