「街のアトリエ」紋切り研究家 下中菜穂さん
ふなばしアンデルセン公園で毎年開催される「きりがみコンクール」の審査員を務める下中菜穂さん(=写真・63)は、紙を切り抜いて紋様を作る「紋切り遊び」を現代に伝える活動を行っている。
大学卒業後にイラストレーターとして活動。30年ほど前に本で紋切りに出合った。手本にならい紙を折りハサミを入れ広げると、カタバミの葉の紋様が現れた。
江戸時代に生まれたとされる紋切り遊び。「暮らしの中で作って楽しんでいたことが面白いと思った。代々受け継がれてきたこの文化を絶やしてはいけない」と文献にあたり、切り紙文化のある中国にも足を運んだ。
家紋のモチーフには草花、景色などの自然が用いられ、その数約2万種類。「例えばカキの花はあまり目立たないのに、昔の人がそれを見て家紋にまでしたことに驚いた」。それらにバリエーションを付け、組み合わせることで物語や願いが生まれる。「特に着物の紋様。お嫁にいく娘には『穏やかな人生でありますように』という親の思いが紋に託されていた」
出版や体験会を重ねる中でさまざまな出会い、発見があった。11年の東日本大震災の際には被災者が暮らす仮設住宅を訪れた。そこでワークショップに参加した教師が、手の中から作品が生まれたことに感動して涙を流して喜んだという。「紙とハサミがあれば、どこでも誰でもできる。たかが切り紙だけどそんな力もある」と魅力を語る。
ありきたりで新鮮味がないという意味の言葉「紋切り型」。下中さんは「最初はマネでいい。型があるから型破りがある。北斎も広重もみんな同じような絵を描いている。同じ型で作っても個性が出る。型通りでいい、って言われたほうがリラックスして良いものを生み出せたりするもの」と微笑む。「形に込められた思いと文化を未来に残したい」