ハンセン病伝える本出版 船橋出身の編集者・阿部さん

船橋市出身の編集者、阿部正子さん(70)が手掛けた「訴歌 あなたはきっと橋を渡って来てくれる」(皓星社)は、全国のハンセン病療養所で詠まれた俳句、短歌、川柳、3300作品をまとめた一冊だ。コロナ禍の昨春に刊行され、重版が決まるなど人々の共感を呼んでいる。

画像=刊行を記念して昨年開かれたイベント「B&Bトークショー」で、作家のドリアン助川氏と対談する阿部さん㊨

「私が受け取ったバトン 読者へ」
ハンセン病は「らい菌」が皮膚と神経を侵す感染症。患者らの強制隔離を定めた「らい予防法」は96年にようやく廃止された。「社会から隔離された悲しみや怒り、虐げられた者が持つ知性や優しさや感性が作品に巧みに秘められている。私が受け取ったバトンを読者へ」と阿部さん。副題にした作品(辻村みつ子、1992年)からは「いつかきっと、みなさんが私たちの心を理解してくれる、といった作者の強い思いを感じた」という。

出版社に勤務していた16年、阿部さんは図書館で「ハンセン病文学全集」(全10巻、三省堂)を手にした。同業の故・能登恵美子さん(享年49)が療養所を巡って集めた約3万作品が載っていた。「私が幸せに暮らしてきた時代に、別世界があった。歌が『私たちを外に出してくれ』と」。改めて読者に届けたいと作品を抜粋し、詩情や普段の生活で使う言葉など分類。4年をかけ完成させた。

〈襖越しに死んでくれよと長兄の言いいし声の耳を離れず 入江章子、1998年〉

〈しんしんと深まる夜なり線路上に一度寝かせし吾子ぞ抱き取る 千本直子、1939年〉

〈猫の子に飯を冷やしてあたえけり 中野三王子、1926年〉

「昭和、平成と自分が生きてきた時代と作品を照らして読んでほしい。商業ベースでもなく気取りもしない作品に打ちのめされて」