告発運動広がり受け「キングコング・セオリー」を和訳
船橋市在住のフランス語翻訳家、相川千尋さん(38)がこのほど、同国の作家ヴィルジニー・デパントのベストセラーエッセイ「キングコング・セオリー」を翻訳した。世界16言語で翻訳されている話題作で、国内でも出版後、大きな反響を呼んでいる。
同書は06年に出版。著者デパントが性暴力被害、売春など自身の体験から、「女らしさ」や「男らしさ」、「国家と個人の権力関係」などについて独自の理論を展開するもので、17 年のセクハラ告発運動「#МeTоо」の広がりとともに再ブームとなっている。
この気運の⾼まりを受け相川さんは、フェミニズムに興味を持ち始めた人たちにこの本を届けたいと、出版社に企画を持ち込んだ。
「目の前にいる人との関係をどうするか、誰にとっても切実な問題。痴漢に遭っても『気のせいでは』などと言われ、こっちがズレているのかなと思うことも。違和感に対して声を上げる⼈が増えれば、次の世代に違ったことが起こるかもしれない」
「女らしさとはすなわちご機嫌取りだという文章にハッとした(女性)」「一方的な見方で男性を攻撃しているとも受け取りうる箇所もあり…(男性)」など本を手にした人の反応もさまざまだ。「デパントは議論したくて書いたと言っていて、読み手の自由な感想がうれしい」と相川さんは話す。
原書を読んだのは18年初夏。冒頭の「私はブスの側から書いている。ブスのために、ババアのために」(第一章「バッド・ガールズ」)といった、刺激的でユニークな文体に引き込まれた。「はみ出している側から語っている。怒りの感情をストレートに書いていて、鋭くて、温かい」。羅列されている「だめ女」に自分が重なった。「いろんな理由でだめと言われるけど、別に自分はそれでいい、⾃分に満足している」というシンプルなメッセージが心に響いた。「同じような気持ちを抱えて生きている人に読んでもらいたい」。
翻訳の過程では「分かりやすさ」を重視し、固有名詞などを丁寧に解説した。著者の理論に賛同できなかったり、部分的に切り取ると問題になりそうな表現もあったが、編集者に「サバイバーの⾔葉で、そう書いた理由がある。全体の文脈で伝わる」と背中を押され、訳者として腹をくくった。
「女性のちっぽけな特権を男性のちっぽけな既得権と対⽴させるものではなく、それらすべてを捨て去ること」(第七章「女の子たち、さようなら。よい旅を」)