「子どもを育む街」中村圭伸さんサッカー通じ人材育成
「今日は何をうまくなりに来たの?」
練習場に集まった子どもに質問すると、全員が答えられることがチームの自慢だ。船橋市出身で、「フットボールコミュニティー千代田」の代表理事を務める中村圭伸さん(36)が運営する千代田区唯一の民間のサッカークラブは、自分の意見を表現できるコミュニケーション能力の育成に重きを置く。
画像=市船橋高出身で、千代田区唯一の民間サッカークラブの代表を務める中村さん
サッカーという「助け合いが連続する」競技を通じて選手が自ら考え、行動することの大切さを学び、人間的な成長を遂げることを重視する。
船橋市三山で育ち、姉の影響で幼少期からボールを蹴った。小学3年生のときにプロのJリーグが開幕。自身もその楽しさに夢中になった。船橋の選抜チームを経て柏レイソルのジュニアユースに入団するが、レベルの高さから挫折を経験。名門の市船橋高に進んだ後も通用しなかった。一方、公式戦に出られない「2軍」がクラブチームに登録し全国大会を目指すという制度があり、目標を持って取り組めたことでサッカーの魅力を再認識した。
「ずっと関わっていける人材になりたい」とコーチの道に進むことを決意し、複数のクラブでコーチの経験を積んだ。その後、「社会でも通用するサッカー選手を育成するためには自らの社会人経験が必要」とベンチャー企業に勤めた。
29歳でFC千代田から声が掛かった。もともとは外国人の子ども向けのチームだったが、東日本大震災を機に仏国籍の選手らが帰国。日本人の受け入れを始めたところで白羽の矢が立った。14年に代表となったが、同区のグラウンドはコンクリートなど劣悪な環境で、悩まされたものの「一番難しいところで挑戦するのって面白そう。チャレンジしてみようと思った」。
保護者には「サッカーを通じて人を育てていきたい」と伝えている。勝ち負けだけにこだわってしまうのは「もったいない」。現在は約400人が所属し、Jリーグ入りする選手も出てきた。「選手が主役」の方針が少しずつ実を結んでいる。
民間の立場から行政と共に取り組む「都心型ロールモデル」を目指している。18年からは区立麹町中からの依頼でサッカー部にコーチを派遣している。生徒の活動の場を確保し、教員の負担も軽減するのが目的だ。「たぶん日本で初めて中学校体育連盟から脱退して、中学の部活を学校体育から地域スポーツに変換したのではないか」。こうした改革が一つのモデルとして広まることを中村さんは願う。「僕らみたいな人間がもっと前に出るべき」と呼び掛ける。