「人」俳句と短歌6万作品を採録した辞典を作った 阿部正子さん

有名、無名を問わず、江戸時代から昭和にかけて詠まれた句や歌6万作品を載せた「てにをは俳句・短歌辞典」を作った。

人に会う喜び、日常の中の幸せ、美しい自然との出合い…。「歌には豊かな感情が凝縮されている。人の心には時代や性別、有名無名を越え共通するものがある。一緒に心をはせることができたら」

三省堂の元編集者。辞書のほか、差別や偏見に苦しむ人が書いた「いのちのことばシリーズ」を手がけた。4年前に退職し、より自由な発想で楽しいことをと同辞典の製作に取りかかった。

詠み手の言葉が第一と、解説は付けず、「挨拶」「髪」「気色」など五十音順にテーマを設け分類。俳句と短歌を「ごった煮」で並べた。同じテーマでも複数の詠み手の表現に浸ると、「コップの水があふれるように突然、分かることがある」。それぞれの作品が呼応し、ハーモニーを奏でる「歌の宴になれば」。
朝から晩まで一人でパソコン画面に向き合い、4年をかけ完成させた。「明けない夜はない。くたくたになっても、翌朝、新鮮な表現に出合うと元気が出た」という。

西海神小、海神中出身。自宅にも友達の家にも子ども向けの本はなかった。安価なものを購入したり借りたりして読書する日々。にぎやかな大家族の中の「自分をうまく表現できない」少女だった。

言葉への飢餓感から、大学卒業後、三省堂へ。「いのちの―」で障がいを持つ子どもたちの表現力や生命力に衝撃を受けた。ある家族に「あなたの見ている景色と、こちらが見ている景色は違う」と指摘を受け、第三者の解説より、「当事者の言葉の力」を信じるようになった。

短文に惹かれ、17年には昭和の懐かしい暮らしを複数人で寄せ書きしたミニエッセイ集も手がけた。自身も「小暮正子」の名で、少女時代の記憶を冗談交じりにつづっている。無数の表現者に出会い、当時のことをかたちにできた。

同辞典は、今の感性すべてを生かし、句や歌を詰め込んだ自信作。ひとつ上の表現のためのヒントになれば。