地元の民話を本に 市民から聞き取り30年
古くから地元に伝わる昔話などを30年にわたって市民から聞き取る活動をしている「船橋の民話をきく会」(荒石かつえ会長=写真・77)が、32の話をまとめた書籍「ふなばしむかしむかし」を発行した。
印内のじゅえむ(じゅうえもん)や海に関する民話など、5章で構成。52人、3団体から話を聞いてまとめた。コラムや、どの地区の話かが一目でわかる「船橋おはなしマップ」も掲載。子どもから大人まで楽しんでもらいたいという。
同会は、宮本公民館の講座「日本の民話」を受講した主婦らを中心に1990年に発足。地元の高齢者らを訪ね、その家や地区に伝わる民話を繰り返し聞き取り、文字に起こしてきた。
「何度も聞いていくうちに、語り手の記憶がよみがえり整理されていく。コツコツと活動を続けて気づけば私たちがおばあちゃんになっていた。語ってもらった話を後世に伝えていかなければ」と荒石さん。口承文芸研究の第一人者である米屋陽一さんの監修のもと、会員たちが「再話」し、絵や写真も添えて一冊にした。
「身近な場が舞台となった話は、臨場感があり、聞く人も楽しい」。中でも地元の子どもたちに人気なのが印内村の「おさないタカ番」という話だ。将軍のタカの見張りを任せられた主人公のじゅえむが、タカの些細な動きのたびに眠っている鷹匠を起こして報告する、という笑い話だ。
船橋には、とんちが利き、おどけ者のじゅえむにまつわる民話が数多くある。幕府の役人に逆らうことができなかった庶民が、物語の中で「権力者をギャフンと言わせて笑い飛ばす」。そういう当時の様子が伝わってくる。
娯楽の多様化などにより民話は年々衰退しているが、近年では会に20歳代の教員が入るなど、新たな動きも見られる。荒石さんは「今、途切れたらもうなくなってしまうと危機感を抱いて活動してきた。こうして形にできてよかった」と胸をなで下ろす。
「わかりにくい言葉が出てきたら、あなたの言葉にかえて語ってくださいね」。荒石さんらは語りの依頼も受けている。
書籍は各図書館や学校に寄贈するほか、一冊千円で販売する。