認知症をVRで疑似体験 当事者たちの「世界」想像して

階段がものすごい段差に見えたり、実際にはいない人や虫が見えたり…。認知症の人の視点をバーチャルリアリティ(仮想現実、VR)の技術で疑似体験する勉強会が、本紙エリアでも開かれている。先月10日、サービス付き高齢者向け住宅「銀木犀 鎌ケ谷富岡」(大下誠人所長・富岡2)で開かれた体験会を取材した。
体験会には近隣施設で働く介護士らが参加した。参加者は、360度見渡せるゴーグル型の機器とヘッドホンを装着。しばらくすると「ひゃあ」「うわ」など会場に小さな悲鳴が上がった。
参加者たちが見ている「自分」は今、ビルの屋上の端に立つ。一歩でも踏み出せば、数十㍍下の道路に落ちてしまう。「いちにのさん」。側にいる見知らぬ人に一歩を促される。別の人は「大丈夫ですよ」と笑みを浮かべている…。そこでシーンが切り替わる。「自分」が立っていたのはビルの屋上ではなく、送迎バスのステップ。そばで2人の介護士が下車のサポートをしていた。
これは認知症の症状の1つ「視空間失認」を体験するコンテンツだ。体験会に参加した、介護福祉士の星洸平さん(27)は認知症の人と関わる中で「どうしてこんな言動を、と思うことがあるが本人じゃないと分からないことがある。これはこわい」と合点がいった様子だった。
大下所長(33)は「介護者が立ち位置を配慮するだけで恐怖や不安が和らぐかもしれない。なぜこの人は床の模様が変わると立ち止まってしまうのか」など、VRを体験することでそれまでと違うアングルで要介護者の世界を想像するきっかけになればという。
認知症といえば記憶障害などが思い浮かぶが、自分の気持ちをうまく言えない「失語」や、実際には無いものが見える「幻視」などさまざまな症状がある。
一方で、「徘徊、暴言といった専門用語で呼ばれる言動は、認知症だから起こすもの」と決めつけられがちだ。気分を変えたくてふらっと外出したり、急かされてつい口調が乱暴になるなど、何らかの理由で「通常と違う行動」を取ることは誰にでもあって特別なことではない。
大下さんは「認知症になったとしても、ちょっとしたサポートがあれば社会とつながって暮らしていける」と話す。