「母の味」の作り方 支援施設で暮らす母子の自立を応援 退所後の生活に好循環 生み出す
ドメスティック・バイオレンス(DV)や経済的理由で県内の生活支援施設に暮らす母子を対象に、料理教室を開いている市民団体がある。
法典小出身の同級生3人が中心となり立ち上げた「食べる応援 6年4組」は誰かと料理し食べる喜びや、調理を通じて得る生活の知恵などを伝えようと16年から活動している。月1回ほど、母子たちと調理し食卓を囲んでいる。
今月のメニューは「ラタトゥイユ」など5品。メンバーと参加した数組の母子が手分けし、下ごしらえから始まった。「トマトの皮むきはおいしいエキスが出ないように優しくね」とメンバーが子どもに話しかける。「おしゃれな店に行かないし、レシピ動画を見ても上手くいかないから作らない」と話す母親に調理のコツをそっと伝授。また、別の調理台では作業の手をとめ母親の話に耳を傾ける。「なんか涙出てきた」と話す母親をメンバーが気遣う。「大丈夫。玉ねぎが目にしみただけ。あ、わかった。風が吹いてくる方に立てばいいんだ」
およそ1時間後、トマトの汁と野菜の水分でうまみたっぷりのラタトゥイユが完成した。
会代表の川島陽子さん(56)は「施設を出た後、母子の生活が困窮する可能性がある。簡単に低予算で作れる料理をひとつでも覚えていたら、その時に空腹を満たせるかもしれない」と狙いを話す。
施設長は「母の味に触れるよい機会」と活動に賛同する。施設では食事の用意は入居者自身で行うため、日常的に市販の弁当で済ませる母子も多いという。母親自身が施設で育つなど家庭の味が身近になかった人もいる。「旬の食材を使うと安価で、季節感のある料理になる」といった知恵が母子の生活をより豊かなものにする。
また、未婚やDVなどで配偶者や家族からの協力を得られず、育児につまずく女性も多い。活動を通して「顔見知りが増えることで、退所後の生活に好循環が生まれる」メリットもある。
発起人の1人、曽根いづみさん(55)は学校給食の調理員。以前、「給食以外に食事をとっていない」という児童がいた。「子どもが自分で料理ができたら、弁当ではなく材料を買う選択肢が出てくる」と栄養面での影響も期待している。