故人からの便り「頼り」に 手紙寺 船橋の「ラストレター」

「子どもができなかったこと、すまなく思っている」――。白井市在住の50歳代の女性が亡き夫から受け取った手紙には、見慣れた小さな字でそう謝罪の言葉が綴られていた。「そんな風に思っていたの。私はあなたがいれば良かった」

画像=永代供養墓が見えるラウンジ「手紙処」で手紙を書いたり、読んだりできる(写真左)、手紙は空調設備が整った専用の部屋で保管している

船橋昭和浄苑(大神保町)内にある「手紙寺 船橋」は、生前に預かった手紙を差出人が亡くなった後に届ける「ラストレター」という取り組みを続けている。手紙を受け取った遺族らもまた、故人へ向けて返事を書き心の整理を付ける。
生前に配偶者と二人で訪れる人もいれば、亡くなった妻に気持ちを伝えられていないと、毎週、手紙を書きに来る男性もいるという。

ある90歳代の男性は18年、3人の子どもらに宛てた手紙を寺に預けた後、亡くなった。葬儀の時、スタッフの武藤あゆみさん(41)が遺族に「どんな方でしたか」と尋ねると、男性の長女は「厳しい人。父は私を嫌っていたと思う。まともに会話を交わしたことはない」と硬い表情を見せた。
後日、武藤さんは男性から預かった手紙を渡すと長女は「こんなふうに思ってくれていたんだ」。初めて向き合う父親の字、自分に対する思いを知り涙を流した。そして長女はペンを取った。「お父さんへ」――。

武藤さんは「家族は存在が近いためにじっくりと話さない。まじめな人ほど言えないことがある」と手紙を仲介する意義を話す。スタッフの勝田裕人さん(47)は、「自分が亡くなってから手紙が読まれるからこそ、書けることがある。過去と未来を含めた言葉の結晶。最期の便りは、残された人たちの心の拠り所、頼りになっていく」と語る。

取り組みは約5年前から。きっかけは約1200年の歴史がある證大寺(東京都江戸川区)の井上城治住職(48)の体験だ。住職が寺の運営に悩んでいた29歳の時、「あなたに宛てた手紙が本堂の上にある。私が死んだ後に開いてみなさい」という父の言葉を思い出した。懐中電灯を片手に見つけ出した手紙には「後継に告ぐ 證大寺の念仏の法灯を絶やすな(城治9歳)」と書かれていた。そこから手紙寺の構想が生まれた。現在は「手紙寺 船橋」を含め全国4カ所に拠点を構えている。
手紙の預かり料は1万3200円。思い出の写真などと共に不燃性の箱で厳重に管理され、依頼者が亡くなると手紙を預かっている旨が受取人に通知される。
℡(457)0550