12年ぶりの新知事 熊谷俊人氏インタビュー

熊谷俊人氏(43)が12年ぶりの新千葉県知事として就任してから2カ月。新型コロナウイルスへの対応、防災、地域活性化など、県政の課題は山積しており、その手腕が問われている。熊谷氏は5月28日に県庁で本紙の単独取材に応じ、地域課題への取り組みや、行政への姿勢について語った。

画像=熊谷俊人(くまがいとしひと)…1978年2月18日、奈良県生まれ。浦安市、神戸市などで育ち、早稲田大政治経済学部を卒業後、NTTコミュニケーションズに入社。07年に千葉市議初当選、09年に千葉市長初当選、3期務めた。21年3月の千葉県知事選挙に無所属で立候補し、7新人らを下し初当選した。趣味は歴史、登山、詩吟。家族は妻、子ども2人。

■新型コロナ対策について。
知事に就任してすぐに重症者の病床の拡充に向けて動き、約40床増える見込みで大きな前進と思っている。
(十分な感染防止策を実施している飲食店を県が評価する)「認証制度」を着々と進めている。できる限り早くメリハリのついた飲食店対策になるように全力で取り組みたい。
どうしても目の前のことばかりになってしまいがちだが、3カ月先、半年先にどのようになっているかを想定した上で準備しておくことが大事。中長期的な視点で臨んでいきたい。

■まん延防止等重点措置における問題では「県の動きが遅い」との声もある。
それは飲食店の見回り問題では? 船橋市から意見が出ていることは私も知っている。見回りと要請、場合によっての強い措置については我々としても考えており、具体的なことについて聞きながらやっていきたい。

■市独自の保健所を持つ船橋市が県のコロナ対策本部会議に入った。変化はあるか。
船橋市の松戸徹市長からは「本当に風通しが良くなった」と言われており、いろいろな意見をもらっている。例えば飲食店への協力金を可能な限り速やかに支給してほしい、知事がもっとテレビやインターネットに出てまん延防止措置の意味について発信してほしい、など。我々はしっかりと対応している。

■公約の「市町村との連携」はうまくいっているか。
「うまくいき始め」。いきなり劇的には変わらないが、以前に比べればコミュニケーションが取れているのでは。千葉市長時代に不満だったのは、知事や副知事レベルの意思決定層が一体何を考え、何に悩んでいるか、まったく分からなかったこと。アイデアレベルのことは職員ではなかなか言えない。
「市長にだけ言うけれども、こういうことを議論している」と伝えるのは、それぞれの市が何かを考えるときに重要。県がどちらを向いているのか、価値観や考え方の基準などを共有し、大本の軸が理解できればそれぞれの事態に対して「おそらく県や知事はこう判断するのでは」と、想像して対応できる。

■習志野市と鎌ケ谷市は県立の習志野保健所が管轄している。市レベルでは「報道発表と同じデータしか自分たちのところに来ない」との不満もある。
保健所には「市町村との情報共有を密にするように」と話をしており、習志野の宮本(泰介)市長や鎌ケ谷の清水(聖士)市長ともやり取りをしている。例えばまん延防止で習志野市が入る際、ある程度内部で、問題ないタイミングになったときに「そういう方向になる可能性が高いので意識しておいて」と事前に連絡した。鎌ケ谷も同じ。首長同士が全てではないが、副(知事)・副(市長)同士、事務方同士に加えて首長同士でもそういう形を、と。

街の情報、課題を県民と共有

■「第二東京湾岸道路」の検討について、地元では漁業関係者や市民団体などからの反対の声が根強くある。
私も千葉県も、過去に船橋を中心にさまざまな反対や懸念の声があったことを十分に理解している。少なくとも我々は(かつて取り沙汰された形の)第二東京湾岸道路ではないと言っており、三番瀬を含めた地元の環境などに配慮した形での道路整備が基本だ。国も十分認識していると思う。

■鎌ケ谷市などが県と国に働き掛けてきた国道464号「北千葉道路」の一部区間の整備を国が新規事業化した。今後の見通しは。
未確定の区間があるので、いつまでとは言えないが、千葉県だけではなく首都圏全体にとって極めて重要な道路。市町村と国と連携しながら、全力でやっていく。

■かつて水害が多かった船橋などの海老川水系における河川整備計画の進捗状況は。
着実に進めており、今後、調節池の整備に入る。掘削もする。一つ一つ対策を取っていく。

■県政は「中二階」といわれ、市町村と国の間にあるが、この立場をどのように生かすか。
千葉県には広域的に解決しなければいけない課題がたくさんある。「広域行政体」だからこそできる役割を果たし、真ん中にいる行政体だけれども必要不可欠だと思ってもらえるようにしたい。千葉県はものすごく広い。日本の縮図。東京に近い船橋、鎌ケ谷、習志野などのエリアもあれば、銚子、外房、内房、あらゆる地域がある。それぞれの街づくりに市町村と連携して関わることができるのは非常に魅力的だ。

■防災については。19年には台風15号の被害があった。
県民の防災の意識が極めて高まっている。県も対策と体制を強化し、他県に比べても先進的な取り組みをやっていけると思っている。土砂災害警戒区域の指定も1万カ所以上になった。災害に強い千葉県づくりに向けて着実に進んでいる。
地震では、東方沖と東京湾北部に大規模震源がある。突発的な状況になったとき、現場の情報を県庁がちゃんと把握できるような状態を作っていく。普段できている以上のことは、危機のときにはできないので。
液状化の問題は難しい。東日本大震災以降、対策事業を実施できたのは千葉市美浜区と浦安市の限定されたエリアのみ。完璧に防ぐだけではなくて、起きた後に支援することが大事で、減災の考え方も取り入れていく必要がある。
街のことは街の人が一番、我がこととして関係してくる。災害を受けるとそれを実感する。私は阪神・淡路大震災でまさにそういう考え方に至った人間。街を見る感覚、景色が変わった。高校2年の時だった。

■千葉市議会議員だった時期は民主党所属だったが、現在、政党の党籍はあるのか。
いいえ。最初の千葉市長選挙(09年)に出るときに党籍を外している。当然。首長というのは常にそうでなければいけないと思っている。

■選挙戦の街頭演説では写真撮影を希望する県民の列が長かった。あのムードについては。
選挙や政治に強く関わってこなかった方々が関心を持ち、演説を聞きに来ていただいたのはうれしかった。私はイデオロギー的なことは言いたくない。この国を良くする、県を良くするなど、そういうのも当たり前。具体があってこそ。全ての人たちに実感のあることを語ることができて、かつ何をしてきたか言えて、何をするか言える、それによって信頼されて選ばれる。民主主義本来の理想形は地方行政、地方政治であれば追求できる。

■著書で「地方分権を突き詰めていくと『住民自治』になる」と記している。そこを詳しく。
日本では、税金は年貢のように巻き上げられて権力者が勝手に使っているとのイメージがあるが、本来は共益費であり、行政は納税者のもの。行政の人間はある種のプロとして雇っている人たちでしかない。あくまで主役は住民だ。当事者意識を持っていただくのが一番だと思う。そのためには行政が街の情報や課題をしっかり住民に発信し、共有することが大事だ。