「異彩探訪」油彩画のお医者さん

海神5にある「Yasuda Atelier」は、ひび割れたり、剥がれたりした油彩画を修復する工房だ。

画修復家の安田みつ江さん(69)が、主に個人宅にある油彩画の修復を請け負っている。安田さんは「油彩画の修復は日本で浸透しておらず、古くなって傷んだ作品は放置されたり、最悪の場合は捨てられたりする。油彩画の良い状態での保存と修復方法を広めていきたい」と話す。

画像=アトリエで作業する安田さん

修復の材料は、にかわや顔料といった水で落とせるもの。「修復は創作ではないので、修復前の状態に戻せることが鉄則」で、手を加えるのも最小限という。

「修復家は絵のお医者さんのようなもの」と安田さん。使う道具も「外科用メス」などで、作品それぞれに修復過程を記録した「カルテ」も作成する。「これまでに100作品以上を処置したが、ここに戻ったものはない」と安田さんは胸を張る。

自身も絵を描き、国内外で個展やグループ展を開いてきた。30代半ば、海外の機内誌で修復家を取り上げた記事を読み、「私にも何かできるかも」と考えたことが修復家になるきっかけ。49歳の時、スペインにある美術学校の絵画修復科に入学し、首席で卒業した。帰国し03年に兵庫県神戸市にアトリエを構え、18年、海神の自宅に拠点を移した。

修復の過程で、作品に秘められた歴史を知ることもある。マリア像をクリーニングしたら意外なものが出てきたり、男性画家が愛人のために描いた作品のサインを女性の名にしていたり…。

「1千万円以上の価格がついた絵も、日曜画家が家族のために描いた絵も、修復する私の気持ちは同じ。絵の価値は、価格ではなく持ち主にとってどれほど大事かだから」
大型作品の場合など出張修復にも対応。住所は海神5の10の18。見積もりや依頼方法など詳細はホームページ(http://mi-rest.d.dooo.jp)まで。