船橋の漁業 苦境

船橋市の漁業が苦境に陥っている。新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言により、多くの飲食店が営業を休止した影響で魚類の売り上げが落ち、漁にも出られない状況が続いている。

画像=多くの漁船が係留された状態の船橋漁港

船橋市農水産課によると、例年は船橋漁港の主力であるスズキなどのシーズンだが、「都内の飲食店に卸している魚の流通が止まってしまった」。貝漁も影響を受け、ホンビノス貝は半分程度の水揚げ量に。スーパーマーケットなどへの出荷は維持しているが、飲食店向けのものはほぼストップしている。

船橋市漁業協同組合の笛木隆専務理事(63)は「魚を取る漁の全てを見合わせている」。同漁協にはおよそ100軒の漁業就業者がいるが、漁獲高日本一を誇るスズキは大型魚のため、「包丁さばきが必要で、流通が難しい」。豊洲市場や個々の飲食店といったメーンの卸先以外に活路を見いだすことができない状況だ。

需要減で漁出られず
5月中旬には試験的に1隻ずつ海に出たが、魚の相場も値崩れしているため、週に1回程度の出船に抑えて状況を見守ることにした。漁師らは頭を抱えており、「需要と供給なので、食べてくれないことには…。コロナで緊急事態宣言が出てから、収入が1割未満になった」と笛木専務は漁港の苦境を訴える。「東日本大震災のときには無事に魚が流通したが、地震や台風は一時的。今回の状況は初めてだ。早く正常に戻ってほしい」

船橋市地方卸売市場でも異変が起きた。水産物の取扱高の前年比は、3月に11・5%減、4月には29・4%減と、コロナ禍の影響が深刻化している。総務課は「4月に3割も減ってしまった。5月に好転材料がなければ横ばいか、さらに減るのでは」と気をもむ。千葉市、柏市の地方卸売市場も同様の傾向で、全県的に魚の流通と消費が鈍っているとみられる。

「飲食店で出る高級魚ほど影響が大きい」と同課。結果、漁をしても販売できず、売れたとしても安くなるのなら経費が掛かる漁を止める、という漁業の悪循環が続いている。

他方、船橋市地方卸売市場の水産仲卸業者が切り身などをパッケージ詰めした新商品がインターネット上で注目を集めるなど、アイデアで苦境を乗り切ろうという動きもある。