髪と一緒に心も解く 寝たきり、麻痺ある人も対応 「訪問美容師」の橋本さん・高野台

船橋市高野台3で美容室「結Hair Nail」を営む橋本結希さん(34)は、要介護の高齢者など外出が困難な人の自宅や入居施設に出向き髪を切る「訪問美容師」として活躍している。寝たきりの人や麻痺のある人なども幅広く対応しようと、17年に介護福祉士の資格も取得した。
「髪を整えられないってストレス。私の人生こんなはずじゃなかった、この髪じゃ外出できないなど、感情がたまっていく。人生を謳歌してもらいたい」
3日、橋本さんは市内の蛯江類さん(99)宅を訪れた。蛯江さん家族は、近所の美容院が閉店し「車いすを押して遠くまで行くのは大変」と困っていたという。施術後、橋本さんが「大丈夫? 満足ですか」と訪ねると、蛯江さんは「うん、ありがとう」と笑った。
店から半径約8㌔を対象に、これまでに地域住民ら250軒以上の自宅を訪問した。長い間、髪を洗えず、複雑に絡まって家族も途方に暮れていた高齢者の髪を2日間をかけ「髪と一緒に、今までたまったものを全部ほどく」つもりで解いたことも。髪を整えたいという願い叶わず亡くなった人の最後の施術をしたこともある。「普通のサロンなら断られるかもしれないけど、髪を切れたら、人間らしく生きているという実感を持ち続けられる」
船橋で育ち、「家に1人いたら便利」と美容師に。病で動けない祖母の髪を自宅で切ったことが活動の原点だ。介護は施設で働いて学んだ。
鏡越しに利用者の顔を見ながら、戦争を生きのびた話や、自らの手で街を作り上げた話を聞くのが楽しみという。「福祉の輪の中にいる感じ。ありがとうって言われる人数が多いのが、この仕事の魅力かな」と橋本さん。介護現場からの依頼も多く、なかなか自由な時間もとれないが、合間をぬって、後進の指導にもあたっている。