「魔女の宅急便」原作者 角野さん 講演会に市民230人

「魔女の宅急便」シリーズなどで知られる童話作家で、船橋市文学賞の選者を務める角野栄子さん(83)の講演会が先月28日、中央公民館で開かれ、約230人の市民らが作家の言葉に耳を傾けた。

「本は自由な散歩道」

「どんぶらこっこー、と父から聞かされたリズムが体の中に入っている。日本にはそういう豊かな言葉がある」
角野さんは都内で生まれ、5歳で母を亡くした。父の孝作さんが読む「桃太郎」やチャールズ・チャップリンの無声映画などには下町の江戸っ子特有の調子があり、文体に生かされているという。
「戦争が終わったときは10歳の女の子。戦時中は本が少なく、かじりつくように読んだ童話は忘れられない」
戦後に入ってきた自由な文化に憧れ、早稲田大では米国文学を専攻。大手書店に就職後、ほどなく結婚し、24歳で移民としてブラジルへ渡った。言葉も風習もわからず、のちに自らが創造する「魔女のキキのような気持ち」で四苦八苦。そんな中、大道芸人一家の少年からサンバのリズムとポルトガル語を教えてもらった。
2年間の滞在後に帰国。子育てに追われるなか、執筆の依頼を受けた。「始めてみたらどんどん面白くなって。編集者から『良いところがあるね』と乗せられた」と笑う。
「夫は仕事で家にいない。娘と2人でいるとき、書くと安心が生まれた。7年間、毎日書いた」。原稿をまとめた「ルイジンニョ ブラジルをたずねて」で作家デビューしたのは35歳のときだった。
1985年には代表作「魔女の宅急便」の第1作を発表。13歳の魔女、キキの成長を描く物語で、宮崎駿監督による映画化作品でも知られる。原作は6巻まで続き、大人になったキキが男女の双子を生み、新たな物語を展開。スピンオフ2作品も執筆した。
「私が書く人になったのは魔法を手に入れたから」と角野さんは表現する。「本は読み始めた瞬間に私から離れて、読む人と化学反応を起こして扉を開け、違う世界に行く。自由な散歩道として読んでほしい」と呼び掛けた。
講演会は児童文学を表彰する「国際アンデルセン賞」の受賞記念として、市西図書館が企画した。
角野作品のファンで、宮本在住の佐々木紗智子さん(40)は「自分も娘と2人でいることが多く、ストーリーの裏側に先生も同じ女性としてそのような時期があったことを知って興味深かった」。娘の結莉子さん(10)は「いろんな動物が話しているのが面白い」と魅力を語っていた。